
【移転】焼き立てを届ける“ベーグルの日”~学園坂タウンキッチン火曜日「クリカ食堂」
※2021年5月、「学園坂タウンキッチン」から移転しました。今後の営業については、文末の詳細情報のリンク・Facebookでご確認ください。
ベーグルといえば、丸くて穴の開いたドーナツみたいなリング状で、あごが痛くなりそうなほどもっちもちの噛みごたえ……
そんなイメージを覆してくれたのが「クリカ食堂」のベーグルでした。
一橋学園のシェアキッチン「学園坂タウンキッチン」に、焼き立ての香りが漂う火曜日。
「クリカ食堂」のベーグル目当てに、電車を乗り継いで買いにくる常連客も少なくないとか。12時にオープンすると、店頭に並んだベーグルが次々と売れていきます。
◆◆◆
火曜日に全力で焼くベーグル。食べやすさの秘密は“低温長時間発酵”
「うちのベーグルは低温長時間発酵なので、一般的なものよりも食べやすく、消化がいいんです。小麦本来の甘みも生きていますよ」
そう語る店主の栗栖佳代さん。自宅では、みそや梅干し作り、パン教室などを不定期で開催。昨年発酵マイスターの資格も取得するなど、活動の幅を広げています。
この場所で店舗営業にふみきったのは、2年前。
「でも最初は全然ダメで……よく『やめる』って言わなかったなと思うほど」と当時を振り返ります。それでも続けてこられたのは、『余りが出たときでいいから届けてほしい』という依頼があったから。
「冷凍発送の注文も受けているので、店舗分で余剰が出ても無駄にならず、本当にありがたい。火曜日の“ベーグルの日”は、全力で焼こうと思っています!」
前日の月曜日にシェアキッチンで仕込んだ生地を冷蔵庫で発酵させ、火曜日は朝から分割、成形。ベーグルとスコーンを合わせて15種類以上、150個近くを焼き続けます。イベントに出店するときは、その2.5倍も焼くとか!
↑子どもにも大人気のダブルチーズやチョコ、春限定の桜あん、ランチにぴったりのじゃがマヨベーコンペッパーなど、具だくさんベーグルも。目移りするラインナップは、まるでパン屋さんのよう。
↑スコーンは6種類。全粒粉、国産小麦、きび糖、バター、ミルク、塩で作るプレーン生地をベースに、定番のチョコやブルーベリークリームチーズ、オレンジピールとくるみなどが並びます。
◆◆◆
OLからフードコーディネーター、専業主婦からベーグル屋に
もともと全く違う業界でOLをしていた栗栖さんが「食の世界で仕事をしたい」と思うようになったのは、体調を崩し、食事制限で改善したことがきっかけでした。
会社勤めをしながらフードコーディネーターの資格を取得し、退職。
まずは地元の友人パティシエの開業を手伝い、つぎに料理教室のインストラクターとして働きながらパン教室で学びますが、妊娠を機に子育てに専念することに。その頃も、「いつか自宅で料理教室をしたい」という思いはあたためていたといいます。
子育てサークルでふるまっていた手作りのおやつやパンが評判を呼び、ママ向けイベントでの出店の話が舞い込みました。イベントで焼いたベーグルは、行列ができるほど好評だったそう!
そんなあるとき、知人からタウンキッチン開催の「マルシェを作るワークショップ講座」に誘われます。それがこの場所との出会い。一緒に受講した仲間とは、その後も年2回のペースでマルシェイベント「つくるひと」を企画・開催しています。
シェアキッチンは、こうしたイベント出店時にワンデー利用していましたが、一人息子が小学生になったのを機に定期的に借りることに。
「友人や知人から、『材料費を出すから焼いてほしい』という個人的な注文が増えるようになって。そろそろ挑戦してもいいのかなと思い始めました」
当初は受注分を焼き、袋詰めして翌日配達していましたが、「焼き立てのおいしいうちに販売したい」という気持ちが強まり、店舗営業を決意しました。
◆◆◆
「いつか食堂をやりたい」——その思いから誕生した“罪悪感のないランチ”
「クリカ食堂」という店名に込められているように、「本当は料理がしたい。食堂がしたかった」という栗栖さん。
ベーグルを作りながら、きちんと料理も提供するのは困難だと悩み、一時期は本気でベーグル屋をやめようとまで考えたとか。シェアキッチン仲間の協力で、実験的に栗栖さんは料理だけを提供するイベントを開催したこともありました。ところが……
「お客様からは『あれ?今日はベーグルないの?』とがっかりした反応で。やっぱり私のウリはベーグルなんだと気づくことができました」
そこから「ベーグル食堂」という形態に考えを切り替え、2018年秋からランチ販売をスタート。
食事のじゃまをしないプレーンのベーグルに、手作りの具材をはさんだボリュームサンド。そして季節の無農薬野菜をたっぷり使ったスープを提供しています。
それぞれテイクアウトも単品注文もOK。子どもの好きなベーグルとスープという組み合わせもできます。
お昼ごはんがパンだと、野菜不足や栄養の偏りが気になるもの。小さい子どもにも食べさせるとなれば、なおのことですが、このランチならそんな罪悪感はありません。
↑お肉もしっかり入って腹持ちのいいサンド。この日は「豚肉の豆みそ炒め」。コクのあるしっかり味に、野菜もなじみます。
↑「自家製ツナと春野菜の塩麴スープ」には菜の花も!変な苦みはなく、体に染みわたるやさしい味。「小さいお子さん連れの利用も多いので、子どもにもひとくちだけでもスープをシェアしてもらえたら」と栗栖さん。
プレートランチを出したいという思いも抱いていた栗栖さんですが、「このお店に向いているのはテイクアウトしやすいものだ」と考え直したといいます。
実際、イートインスペースでゆっくりおしゃべりしながらランチを楽しむ人もいれば、時間のない人や小さな子連れママにはテイクアウトが好評だとか。
「私が作るもので、お客様の食べる場所を固定したくない。生活のあり方を左右したくないんです」
そんな栗栖さんの思いやりは、お客様とのちょっとした会話、そして栗栖さんが作り出す味にもにじみ出ています。
2周年を迎えた「クリカ食堂」。これからもファンを増やしていきそうな予感がします。