隠れ家的な空間で過ごす、スイーツの時間~学園坂タウンキッチン月曜日「洋菓子店ANCO」
その店名を見て、あんこを使った和風のお菓子を扱うお店だと思っていました。ところが店内に並ぶのは、季節のフルーツを使ったタルトや、ガトーショコラにシュークリーム・・・・・・。
「“あんこ”はうちの猫の名前なんです」と笑う、店主の中村 綾さん。
月曜日の一橋学園「学園坂タウンキッチン」は、彼女の好きな音楽、本や小物で、ほかの曜日とはちょっぴり違う趣に。まるで隠れ家的カフェのような空間です。
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旬のフルーツや野菜、卵にもこだわって、安全でおいしいものを
フルーツタルトは、クッキー生地で焼いたタルト台にフレッシュフルーツを飾って切り分けるタイプと、パイ生地にフルーツをのせて焼くタイプの常時2種類。
春はいちごが定番、そのあとは甘夏やさくらんぼ、ブルーベリーやぶどうが続き、これから夏にかけてはシャインマスカットや桃、いちじくなどもおいしくなる時期だといいます。これを目当てに買いに来る人も少なくないとか。
「“小商い”だからできるやり方で、時間をかけ、手をかけ、新鮮なものをお届けしたい」と話す中村さん。
フルーツは旬のものにこだわって、できるだけ減農薬や無農薬のものを農園やお店から仕入れています。
↑さくらんぼタルト、甘夏タルト、甘夏スカッシュ。ケーキとドリンクをセットで注文すると50円引き。
↑通年提供している看板メニュー。ガトーショコラは、吉祥寺の「Blackwell Coffee」などにも卸している評判の品。シュークリームは、カスタードと生クリームを合わせたクリームがたっぷり詰まっています。
カスタードをはじめ、お菓子作りに欠かせない卵は、青梅のかわなべ鶏卵や日野の由木農場の「さくらたまご」を使用。抗生物質不使用、殻を消毒していないなど、安全とおいしさを追求した卵なのだそう。
キッシュにベーコンを使う場合は発色剤不使用のもの、チーズはセルロース不使用のものを使っています。
子どもでも安心して食べられるものばかりです。
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ひとりでも多くの人によろこんで食べてほしいから
中村さんがお菓子作りに目覚めたのは、小学生のとき、お菓子作りの本を買ってもらったことがきっかけでした。
「その本を見て、シンプルなバタークッキーを焼いて、祖父母にプレゼントしたらすごくよろこんでくれたんです」——その笑顔が、中村さんの原点になりました。
理論はわからないなりに、材料の配合や混ぜ方を変えるなど、工夫すると食感が変わることのおもしろさを体感し、お菓子作りに夢中になったといいます。
しかし、そこからすぐに製菓の道に進もうとは思いませんでした。
中学時代からのめり込んだバレエを極め、幼稚園で子どもたちに教えるまでになりますが、体を壊して挫折。
20代の頃は派遣で働きながら、コンテンポラリーダンスという創作ダンスの世界で、振り付けから選曲、演出までを自分で行い、ソロで踊るという舞台に立っていました。
2016年秋、友人に誘われたのをきっかけに、不定期で『猫のあんこ焼き菓子店』として活動をスタート。マルシェやイベントに出店して、焼き菓子を販売する楽しみを覚えたら、今度はひとりでも多くの人にお菓子を食べてもらいたいという思いが芽生えます。
自宅に近いこの場所に、ちょうど空きが出たことを人づてに聞き、2017年秋、月曜日だけのお店を開くことになりました。
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シェアキッチンでも、喫茶店のような空間づくりはできる!
「学園坂タウンキッチン」にはイートインスペースに本棚がありますが、月曜日だけそれとは別に、中村さんセレクトの本コーナーが現れます。題して「中村文庫」。
接客もすべて中村さんがひとりでやっているため、お客様を待たせてしまうこともありますが、そんなときにも気軽に手に取ってもらえる場所に設置されています。もちろん、喫茶スペースに持ち込んで、ゆっくり読むのもOK。
この場所でお店を始めて間もなく2年。
「はじめのころは製造することに精一杯だった」といいますが、並行して大手のケーキ店でも修業を重ねてきました。製造作業に少し余裕が出てきたこともあり、最近はお店の空間づくりが楽しくてたまらないのだそう。
「喫茶店がやりたくて。チェーン店ではなく、ゆったりとした時間が流れる空間を作りたいんです」
シェアキッチンでも、自分らしい店づくりはできる——そのおもしろさに気づいた中村さん。
音楽や小物を使って、イメージする空間を作っていく工程は、舞台演出にも似ているといいます。
↑ホット珈琲は、1杯ずつ丁寧にハンドドリップで。「カップの雰囲気も含めて、楽しんでもらえる喫茶店にしたくて。このカップは祖母が買いそろえたものを譲り受けました」
あたたかいお店の雰囲気が引き寄せるのでしょうか。見知らぬお客様同士が待ち時間に『これもおいしかったのよ』とおしゃべりする光景を目にしたり、接客中に『ありがとう』と声をかけられたりと、中村さん自身もほっこりすることが多いのだとか。
「中村文庫には子どもたちに読んでほしい絵本も置いています。『うるさくしたらどうしよう!?』なんて心配しないで、どうぞいらしてください。おじいちゃん、おばあちゃん世代から小さな子どもたちまで、そして息抜きしたいママも、この街のみんながゆっくりできる場を作れたらと思っています」
週明け、少しナーバスになっている人も、忙しかった週末が終わってホッとしている人も、
月曜日にこの場所でリセットすれば、また1週間、がんばれるような気がします。
名誉店長(!?)の“あんこ”さん。※店内にはいません。
※2019年9月より、旧店名『猫のあんこ焼き菓子店』から『洋菓子店ANCO』に店名が変わりました。