【移転】毎日食べても飽きない“幸せの味”「あやぱん工房」
※2019年11月、「学園坂タウンキッチン」から移転しました。現在の営業については、文末の詳細情報のリンクからご確認ください。
水曜日の「学園坂タウンキッチン」。「あやぱん工房」の開店は午後3時半。パン屋さんにしてはちょっぴり遅めの時間です。
ランチタイムに利用できるようにしてほしいという要望も少なくないといいますが、店主の橋本 絢さんこと、通称あやぱんさんは「それは無理なんです」ときっぱり。
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通販専門店から、待望の店舗販売をスタート
そもそも、「あやぱん工房」のパンは昨年まで、この場所では買えませんでした。
水曜日になるとパンのいい匂いがするのに、お店は閉まっているから「あれ?」と思ったことがある方もいるかもしれません。
「売っているのか、いつ開くのかと、通りすがりの方にもよく聞かれたので、あるときからは『仕込み中』の看板を出していました」と笑うあやぱんさんは、ここでパンを焼くようになって4年目。
当初、「あやぱん工房」は通販専門店。注文のあったパンを焼いて袋詰め、冷凍して全国に発送するために、タウンキッチンを利用していました。
通販用には、おまかせ13~14種類をセットで出荷しています(現在、定期便は定員いっぱいのため新規受付をストップしています)。
店舗でも販売するようになった今年の1月からは、その週に出荷するパンを多めに焼いて店頭に並べています。
火曜日に生地をこね、一晩寝かせて水曜日に成形し、すべて焼き上がるのが午後。
営業時間が遅めなのは、「一人で作業しているので、焼き上がるまでは集中したい」という職人気質のあやぱんさんのこだわりにありました。
「毎日食べても飽きない」と評判のパンは、自家製イチジク酵母とドライイーストを混ぜて発酵させているのが特徴。酵母を単一で使うよりも、華やかな香りになるのだとか。
小麦粉は100%北海道産、発酵バターに甜菜糖を使用するなど、食材にこだわっているので、赤ちゃんにも子どもにも安心して食べさせられます。
↑「あやぱん」といえば、人気No.1の「おしりパン」。その名の通り、赤ちゃんのおしりのような形!ネーミングに小さい子どもたちも大ウケです。ふわふわ&もちもちでほんのりした甘さ。食事パンとしてはもちろん、おやつにも、離乳食にも喜ばれているとか。
↑「ハイカロリー三世」の異名を持つスコーンは、バターの代わりに生クリームを使用。外はサクサクなのに中はしっとりで、スコーン特有の口の中がモソモソする感じがありません。焼き立てはさらに絶品。
量販店のパンに比べて決して安くはありませんが、常連客の心をしっかりつかんでいるのは、なにより毎日食べたいほどのおいしさだから。
「おいしいものは大切な人に分かち合いたくなるもの。その連鎖で、幸せを分かち合う世界を作っていけたら……なんて思っています」とあやぱんさん。
そんな思いを、このパンを必要とする人、買ってくれた人に届くよう願いながらパンを焼いているといいます。
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実は二足のわらじを履く店主の素顔
小さい頃から料理が好きで、小学校3年生のときの文集には「コックになりたい」と書いていたあやぱんさん。
「おいしいものを食べること」に一貫して興味があり、大学時代は農学部の植物資源学科で学びましたが、その後就職したのはなぜかIT業界でした。SE(システムエンジニア)としてキャリアを積んでいる間も、「ここは私の居場所じゃない」と感じていたといいます。
そんなあるとき、友人の誘いでパン教室に通い始めると、仕事に疲れていた心がパンの香りに癒されるのがわかりました。
自宅でも習ったパンを焼く日々。誰かに食べてもらわないと次を焼けないので、パンを焼いては友人や知人に配っていると、「お金を出すから買わせてほしい」と言われるまでになりました。
「でもそこでSEとして10年以上のキャリアを捨て、給料もゼロになってパン屋になるなんて、博打だとしか思えなくて……」
そんな気持ちに変化が訪れたのは、30代半ばで体調を崩して休職したとき。
「ここでもし失敗しても、まだ会社員としてやり直せる。今がチャンス!」と、安定した会社員を辞め、パン屋として独立することを決意しました。
無料の創業相談会に足を運んだのが「タウンキッチン」との出会い。学園坂のこの場所を紹介されると一目で気に入ったといいます。
「スタートアップはミニマムなほうがいい。リスクは小さければ小さいほどいい」と冷静に判断しました。「ご祝儀も含めて」と謙遜しますが、「あやぱん工房」スタート時にはすでに週10件以上の出荷を見込めていたそう。
とはいえ、パン屋の営業は仕込みも含めて週2日。ほかの日は在宅でSEなど別の仕事を請けています。
「パン屋だけで稼ぐとなると、休みが取れないので、体調面も不安。この兼業スタイルが、今の私には合っています」
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新たなパンメニュー、ドリンク、デザートも開発
通販専門のパン屋を始めて2年目に入るころから、誘われてイベントに出店するようになりました。それまでは接客業の経験ゼロだったあやぱんさん。「はじめは対面販売にオドオドしていた」と振り返りますが、だんだんお客様や地域の人とのふれあいを楽しめるようになっていったといいます。
今では「こんなパンを作ってほしい」というお客様との声が、新商品開発のヒントになることも。
「同じものを焼き続けていると、自分が飽きるから」と、今ある食材でどうやったらもっとおいしいパンが焼けるか、あやぱんさんは常に研究熱心。
「あやぱん工房」で「こんなパンが食べたい」とつぶやいてみたら、数か月後に商品になってお店に並んでいる……なんてことがあるかもしれません。
↑塩パン、ベーコンエピも、お客様のリクエストで定番化した商品。
この夏からは、さらに新たなチャレンジがスタート。「あやぱん工房」でも、ドリンクの提供を始めました。自家製シロップを使った冷たいドリンクのほか、これからの季節はホットコーヒーも低価格で用意。
↑無農薬自家製シロップを炭酸で割った「黒酢梅スカッシュ」(写真左)と「すももスカッシュ」(写真右)。夏疲れのだるさが吹き飛びます! 炭酸が苦手な子どもは、水割りの「黒酢梅ねーど」「すももねーど」を。
↑9月いっぱいの期間限定・数量限定の「アガーで作ったコーヒーゼリー」。溶けやすいゼラチンとは違って、ほどよい歯ごたえが残る食感と、コーヒーの苦み、甘みのバランスが絶妙。ふわっと口溶けさわやかなイタリア産生クリームをたっぷり絞ってくれます。クリームの追加も1回OK!
ドリンクやデザートメニューに力を入れ始めたきっかけは、近隣の喫茶店が閉店し、気軽に利用できるカフェスペースがなくなってしまったことでした。
「タウンキッチン」のイートインスペースは、子連れでもベビーカーでも利用しやすい場所。
「赤ちゃんが泣いても、子どもが元気に騒いでも気にせずに、お母さんたちが一息つける場所になれば」
“幸せの味”がするパンをほおばりながら、利用者みんながやさしい気持ちになれる場所でありたいと、あやぱんさんは願っています。